今回の週刊『現代』による王氏へのインタビュー:中国のテクノロジーシフト
王士銘氏(Anytutor AI創業者)と加藤氏との対談形式で構成されており、2025年から2026年にかけての中国のテクノロジーシフト(不動産依存からの脱却と「硬科技」への移行)について、具体的なデータとともに分析しています。
中国は今、不動産バブル崩壊後、その依存を捨てて「新質生産力」や「硬科技」を掲げています。具体的にどの程度の規模で、このシフトが起きているのでしょうか。
加藤X王
中国は今、不動産バブル崩壊後、その依存を捨てて「新質生産力」や「硬科技」を掲げ ています。具体的にどの程度の規模で、このシフトが起きているのでしょうか。
Q1: 加藤:
中国は今、不動産バブル崩壊後、その依存を捨てて「新質生産力」や「硬科技」を掲げ ています。具体的にどの程度の規模で、このシフトが起きているのでしょうか。
王:
言葉だけではありません。2025年、中国の研究開発(R&D)投資額は約3.5~4兆人民 元(約70~80兆円)に達し、すでにアメリカに追いつきつつあります。過去の消費型 プラットフォームへの投資と比べると、その重心は明らかに、物理的参入障壁が高く、 核心技術の代替が困難なハードテック分野に移行しています。政府系基金は毎年約5兆 円を投入しており、国家レベルでの「ハードテック総力戦」が進行しています。これは 単なる経済政策ではなく、依存を断ち、核心技術を独占することを目的とした生存戦略 です。
具体的には、中国は強力な製造能力を持ち、AIと組み合わせることでスマート製造の高 度化を実現しています。自動運転に関しては、中国は世界最大の自動車市場であり、 L2+レベルの高度運転支援システムが大量に搭載されています。各車両は毎日、カメラ やレーダー、LiDARなどの高次元センサーデータを数TB規模で生成し、数十万~数百 万台の車両が累積することでPB級のデータ量が蓄積され、複雑で非標準化な都市交通 環境をカバーしています。一方、ロボットデータはまだ成長段階にあり、実運用される 台数は少なく、多くは工場や実験環境、展示用途に限定されます。データは把持軌道や 力覚フィードバック、多モーダル触覚など深度の高い情報を含みますが、総量としては 自動運転データに比べるとまだ限られています。
このような背景の下、中国は半導体や新素材、核融合、宇宙・エネルギー技術、スマー ト製造、産業用ロボット、自動運転やスマート交通、量子計算・量子通信、先端バイ オ・生命科学といった幅広いハードテック領域で世界と競争しています。これらの分野 では、高度なチップ設計や製造プロセスの開発、新素材の研究、核融合や宇宙エネルギ ーの応用、AI制御による柔軟な生産システム、リアル交通データを活用した自動運転の 進化、量子技術やバイオ医薬の先端応用など、いずれも物理的参入障壁が高く、核心技 術の代替が容易ではありません。中国はこうした分野に国家の全資源を振り向け、AIの 進化と組み合わせながら、世界的に代替不可能な技術力の構築を目指しています。
加藤:Nature Index等の指標で、中国が米国を抜いて世界1位になったというニュースは衝撃 的でした。この研究力の爆発は一過性のものですか?
王:
いいえ、極めて構造的です。2025年のNature Index(自然科学論文の貢献度)では、1 位中国(シェア+17%)、2位米国(同-10%)と、明暗がはっきり分かれました。背景 には「千人計画」以降の海外帰国組による研究室の高度化と、圧倒的な「予算の集中」 があります。清華大学や中国科学院の予算規模は、もはや日本のトップ大学数校分を合 わせても及びません。さらに、年間1,000万人を超える大卒者と、米国の約1.5倍に達し た理系博士号取得者が、生き残りをかけて過酷な競争(内巻: ネイジュアン)を繰り広 げています。若手には「論文数」が生存給に直結する過酷なKPIが課されており、この 「巨大な予算×エリートの生存本能」が、かつての日本の高度成長期を遥かに上回る密 度で知を生産し続けているのです。
中国の大学は全体として研究型大学の色彩が強く、とりわけ理工系に強みを持つ大学の 比率が高い。清華大学や浙江大学、上海交通大学などを中心に、電子通信、材料科学、 物理、化学といった基盤分野で競争力を高めてきた。華為の5G技術、「天河一号」スー パーコンピュータ、「墨子号」量子科学実験衛星などの成果の背後には、中国の大学研 究チームの深い関与がある。大学が生み出す理工系人材と研究成果は、中国が「製造大 国」から「科技强国」へ転換する原動力となっている。
20年前、科研論文数を基準とする大学ランキングでは、上位の大半を米国が占め、中 国で上位に入る大学はごく少数だった。しかし現在、莱顿大学ランキングでは浙江大学 が首位に立ち、多くの中国大学が上位に入っている。米国の研究力が低下したわけでは ない。実際、ハーバード大学やスタンフォード大学などの研究成果は増えている。だ が、中国大学の研究産出の伸びはそれを大きく上回っている。つまり、米国が弱くなっ たのではなく、中国の成長速度が圧倒的なのだ。世界最大規模の理工系人材を背景に、 量的拡大が質的転換を生み始めている。
Q3【人型ロボット:2026年、量産化の「2025年衝撃」】
加藤:
中国政府が掲げた「2025年までの人型ロボット量産」目標はどこまで進んでいます か。テスラの「オプティマス」を猛追しているとの話もありますが。
王:追うところか、実用化では先行し始めています。2025年、中国メーカーは世界の人型 ロボット出荷台数で圧倒的な存在感を見せました。特に智元ロボット(Agibot)は年 間約5,000台を出荷し、世界シェアの約4割を占めたとの報告もあります。2025年末、 智元や宇樹科技(Unitree Robotics)は、1台約200万〜300万円、あるいは上位機種で も1,000万円程度という、従来の常識を覆す低価格で実用機を投入しました。2026年初 頭の推計では、特定工場での稼働台数は累計2万台を超えています。
なぜ中国が強いのか。それは「EVの部品(モーター、電池、センサー)がロボットに そのまま転用できる」からです。彼らは「完璧なAI」を待たず、「そこそこのAIを積ん だ安価なハード」を大量投入し、現場データでAIを鍛える。この「物量作戦」が、 2020年代後半の労働力不足解消の切り札になります。
人間はつい「最終形態」に一気に賭けたがる。まるで明日の朝起きたら、家にヒューマ ノイドが立っていてコーヒーを淹れてくれるかのように。でも現実は、そんなにロマン チックではない。長期的に見れば、先に進むのは間違いなく自動運転だ。理由はシンプ ルで、車はすでに道路を走っており、市場規模も巨大で、商業的な閉ループも明確。ユ ーザーは「より安全に」「より楽に」なることに対して実際にお金を払う。自動運転車 は毎日24時間リアルな公道を走り続け、データは自然にスケールし、更新頻度も高 く、シーンの複雑さも増え続ける。こうした継続的かつ高密度、全国規模のリアル環境 データは、現時点ではロボットには到底及ばない。車は言わば「移動するデータマシ ン」であり、その先天的優位はあまりにも大きい。
一方ロボットはどうか。优必选、傅利叶智能、宇树科技といった企業が存在するもの の、導入は依然として特定シーン・限定規模が中心だ。物理インタラクションのデータ は確かに“深い“が、量はまだ爆発的段階には達していない。ロボットが本当に大規模に 普及するのは、コストが下がり、信頼性が高まり、ユースケースが十分に検証された後 になる可能性が高い。
しかし重要なのは、データは孤島にならないという点だ。自動運転が蓄積してきた視覚 認識、空間モデリング、動的対象予測、意思決定・制御といった能力は、本質的に「物 理世界を理解する力」でもある。これらは将来、無人配送、産業自動化、さらにはヒュ ーマノイドロボットにも転用されていく。基盤となる知覚モデル、ワールドモデル、プ ランニングアルゴリズムは部分的に共有されるだろう。車が先に走るということは、未 来のロボットのために「データの高速道路」を先に敷いているようなものだ。
より現実的な時間軸はこうなる。
第一段階: 自動運転がスケールし、膨大なリアルワールドのデータ閉ループを形成す る。
第二段階: 無人配送やモバイルロボットが拡張し、技術を一部再利用する。 第三段階: より複雑なヒューマノイドが商業化フェーズに入る。 順番としては車が先に成熟する。しかし技術の基盤レイヤーで見れば、最終的には合流する。ロボットが本格的に普及するとき、最初に取り込む「知能の栄養」は、これまで車両群が道路上で積み上げてきたデータである可能性が高い。物理世界AIは分裂するのではなく、段階的に発達する。見るべきなのは形態ではなく、リズムだ。




